
『老人と海 ディレクターズ・カット版』を観た!

ひとりの老人(劇中ではじいちゃんと呼ばれる)が長年連れ添った相棒を労わるかのように、手の平ほどの小さなスポンジで、サバ二の船体の汚れを丁寧に、丁寧に洗い流している。
冒頭のこのシーンを見ただけでも、これから始まる映画が素晴らしいものに違いない、と期待をさせてくれる。
この映画は与那国島で巨大カジキを追う老漁師の姿を捉えたドキュメンタリーである。
この映画が撮影された約20年前、その当時すでにサバニで漁に出る者はじいちゃんただ一人だったようだ。
他の漁船と比べると小型エンジンを付けただけのじいちゃんの木製のサバニは、あまりにも小さくて心もとなく、与那国の荒々しい海の中で今にも転覆してしまいそうな危うさを、観る者に伝える。
そんなサバニを長年の漁で体に染み込んだ感覚と技術で、まるで手足のように操るじいちゃん。
でも巨大カジキは容易に釣れるものではなく、長いあいだ不漁に悩まされている。
この映画で映し出されるじいちゃんの仕事はある意味単純なルーチンワークともとれる。
来る日も来る日も漁に出て、愛するばあちゃんと二人で食べる分の魚と、誰かに買ってもらうための魚を釣って帰ってくる。
不漁が続いたとしても何かを改善するわけでもなく、ただひたすらと漁に出る。
でもこのシンプルな生活に人間の生き様が凝縮されている気がした。
それに比べて今の自分の仕事はなんだろう?
コスト削減だ、顧客満足向上だと、追い込まれるばかりで充足感とはほど遠い。
じいちゃんの仕事には削減するものなどない程に削ぎ落とされ、そしてじいちゃんが釣ってきた魚を見た誰もが笑みをこぼす。
そして魚が釣れても釣れなくても、無事に帰ってきたときにじいちゃんがいつも見せる笑顔が印象に残る。
この映画はドキュメンタリーであるが、記録映像やインタビューシーンで繋ぎ合せたような構成ではなく、じいちゃんを主役とした物語として進展するので、ドキュメンタリー作品に抵抗のある方でも観やすいと思われる。
そして島の自然や人々の交流、祭りの様子などの映像が時折り挿入され、与那国島の風土・文化を伝える箸休め的な存在となっている。
特に終盤に映し出される島の一大イベントであるハーリーの映像は圧巻である。
私がこの映画を知ったのは今から7、8年くらい前。
初めて行った与那国島で、撮影に使用したサバニが飾られていたのである。
そのときからずっと気になっていたこの映画、ようやく想いが叶った。
この記事へのコメント
これ、見たいんだよね〜こないだ那覇に行った時も桜劇場でやってたんだけど、時間が合わなくて〜(涙)
Posted by みや at 2010年10月04日 09:54
10/8(金)まで、渋谷のUPLINK Xで上映しますよー。
って…、もう出発ですかね ^^;)
って…、もう出発ですかね ^^;)
Posted by よん
at 2010年10月04日 23:56
